映画の地球 音楽の気流 そして書籍の宇宙

智慧の水球に揺蕩うように生きてきたわが半生。そろそろ御礼奉公の年齢となったようで・・・。玉石混淆、13年の日本不在のあいだに誉れ高きJAPONへの憧憬を募らせた精神生活の火照りあり。

2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

映画の地球 これから公開 自ら解毒する性根のない作品 アルゼンチン映画『笑う故郷』 ガストン・ドゥブラット監督

自ら解毒する性根のない作品 アルゼンチン映画『笑う故郷』 ガストン・ドゥブラット監督 原題はスペイン語で「名誉市民」だが、邦題は何故か意味不明の「笑う故郷」に。本作は「名誉市民」の方が象徴的にふさわしいし、反証的なアイロニーを形成すると思う。…

映画の地球 核戦争と映画 3 映画「トランボ」 ジェイ・ローチ監督

映画「トランボ」 ジェイ・ローチ監督 *「核戦争と映画」のカテゴリーに入れるのは少々、無理があるが、冷戦初期の゛熱戦”下における「赤狩り」時代を描いた象徴的なポリテック主題映画として、ここで語っておきたい。 * * * 筆者にとってトランボことダ…

映画の地球 核戦争と映画 2 映画『グッドナイト&グッドラック』ジョージ・クルーニー出演・脚本・監督 

米国、“赤狩り”時代に報道の自由を守り抜いた男を描く映画『グッドナイト&グッドラック』 ~ジョージ・クルーニー出演・脚本・監督 2005*「核戦争と映画」のカテゴリーに入れるのは少々、無理があるが、冷戦初期の゛熱戦”下における「赤狩り」時代を描いた…

映画の地球 アフリカを描く 3 *シエラレオネ『ブラッド・ダイヤモンド』エドワード・ズウィック監督

2006年、レオナルド・ディカプリオは、本作でアフリカの貧しい白人入植農民の息子、長じて傭兵崩れのダイヤモンド密売人となったアーチャーを演じてオスカーの主演男優賞の候補になっている。 主題は、先進国の宝飾メーカーがアフリカの小国の紛争を利用…

Ω 映画の地球  核戦争と映画 1 『原爆下のアメリカ』アルフレッド・E・グリーン監督

『原爆下のアメリカ』 (原題Invasion,U.S.A) アルフレッド・E・グリーン監督 レンタルビデオ屋さん供給用にと、倉庫払底作業のなかから発掘されたようなB級SF映画。邦題、原題(侵略,U.S.A)もまた、なんとも工夫のない直裁なものだが、そこに冷戦時代…

映画の地球 布教と映画*マーティン・スコセッシ監督『沈黙』~カトリック諸国での反応

映画の地球 布教と映画*マーティン・スコセッシ監督『沈黙』~カトリック諸国での反応 遠藤周作の代表作『沈黙』は、江戸初期、長崎・島原地方、隠れキリシタンの住む寒村を舞台に、信仰と棄教という二元論を真正面から描いた日本文学のなかでは特異な位置…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 7   米墨国境地帯は映画の宝庫 『ノー・エスケープ ~自由への国境』 ホナス・キュアロン監督

映画『ノー・エスケープ ~自由への国境』 ホナス・キュアロン監督 2015年の制作だから、まだトランプ大統領が共和党の正式候補にもなっていない時期の映画だ。しかし、米墨国境地帯をめぐる状況が大きく変化することを予見したような映画が撮られたとい…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 6  モノクロームの美しいコロンビア映画『彷徨える河』 シーロ・ゲーロ監督

コロンビア映画『彷徨える河』 シーロ・ゲーロ監督 墨に五彩在り、という。東洋の審美眼を象徴的に要約したものだ。水墨によって森羅万象を描こうとの野心をもった東洋の画工たちは、墨で山なす緑を描き、新緑、盛夏の緑、湿潤な緑とさまざまな抒情を表出し…

映画の地球 プーチン独裁下のロシア映画 4  映画「大統領のカウントダウン」  エヴァゲニー・ラヴレンティエフ監督

映画「大統領のカウントダウン」 エヴァゲニー・ラヴレンティエフ監督(2004・ロシア映画) ソ連時代であったならば絶対に映画化されないポリテカル・アクション。共産党独裁のクレムリン首脳部は、首都モスクワで起きた反政府テロを大いなる恥辱として…

映画の地球 公開中  映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 ジョン・リー・ハンコック監督

映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 ジョン・リー・ハンコック監督 タイトルはなんとなく、米国のグローバル企業を指弾しつづけるマイケル・ムーアの映画のようだが、本作はドラマである。 マクドナルドを知らない日本人は絶対少数派だろうが、…

映画の地球 アフリカを描く 2 ガボン*映画『ル・アーヴルの靴みがき』

ガボン=フランス 映画『ル・アーヴルの靴みがき』 アキ・カウリスマキ監督 舞台はフランス第2の港湾都市ル・アーヴル。御大のニコラ・サルコジ大統領(ハンガリー移民2世)を旗頭にフランスは世界有数の移民社会だ。移民たちの政治的貢献はもとより、文化…

映画の地球 アフリカを描く 1 ケニア*映画『おじいさんと草原の小学校』ジャスティン・チャドウィック監督

映画『おじいさんと草原の小学校』ジャスティン・チャドウィック監督 アフリカのケニアが英国の植民地支配から苦難の戦いを経て独立したのは1963年のこと。ケニヤッタという精神的指導者の不退転の戦いよって独立は果たされた。 そのケニアが小学校の無…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 5 ブラジル映画 『ニーゼと光のアトリエ』ホベルト・ベリネール監督 

映画『ニーゼと光のアトリエ』ホベルト・ベリネール監督 ブラジル ノーベル賞の季節ということで、その辺りから入ろう。 かつて精神疾患、特に統合失調症の患者に対して前頭葉切裁術が行なわれていた。その手術の結果、自我を奪う無気力にしてしまった。その…

映画の地球  プーチン独裁下のロシア映画 3 映画『スペツナズ ~ロシア特殊部隊』 アンドレイ・マルコフ監督

映画『スペツナズ ~ロシア特殊部隊』 アンドレイ・マルコフ監督 ロシア及び旧東欧諸国の映画を丹念に拾い上げている彩プロのDVDの一作。もともと連続テレビドラマとして制作された約45分の番組から2本選び、まとめた編集。ロシア陸軍のいわゆる特殊部隊ス…

映画の地球 プーチン独裁下のロシア映画 2 『チェチェン・ウォー』 

地球の映画 プーチン独裁下のロシア映画 2 『チェチェン・ウォー』 チェチェン紛争を描いたロシア映画のなかでは、もっともシナリオが練り上げられた作品が本作『チェチェン・ウォー』(アレクセイ・バラバノフ監督)だろう。この後に、ロシア映画における…

映画の地球  プーチン独裁下のロシア映画 1 『タイム・ジャンパー』

プーチン独裁下のロシア映画 №4『タイム・ジャンパー』 アホなタイトル、どうとでも取れるメリハリのないポスター・・・・・・を見ればB級映画で予想される範囲はできないだろうと思ってしまう。それでも観る気になったのは復活ロシアの映画界がタイム・ス…

映画の地球 公開中 フィリピン映画『ローサは密告された』

公開中 フィリピン映画『ローサは密告された』 ブリランテ・メンドーサ監督 昨年、フィリピンに誕生したロドリゴ・ドゥテルテ大統領は麻薬密売組織に対して目には目を、と力の行使によって市長時代、地元の治安を目覚ましく改善したことで頂点に上り詰めたポ…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 4 アルゼンチン映画『エルヴィス、我が心の歌』

アルゼンチン映画『エルヴィス、我が心の歌』アルマンド・ボー監督 日本ではラテンアメリカ音楽はメインストリートにはなりにくい。言語的に遠隔感があって愛好者はたくさん存在していても主流にはなれない。だから正確な情報も共通理解とはなっていない。ア…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 3 映画『エバースマイル・ニュージャージー』

私的な歯痛体験もあって、気になるロードムービー ~映画『エバースマイル・ニュージャージー』 ダニエル・ディ=ルイス主演ということでラテンアメリカ映画の範疇で語ることを失念していた。台詞が英語で通されていることも勘違いの原因だが、これは紛うこ…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 2 日本で最初に公開されたアルゼンチン映画『黒い瞳の女』

日本で最初に公開されたアルゼンチン映画 『黒い瞳の女』マヌエル・ロメロ監督 アルゼンチン映画について書いたついでに。最近、フィルムセンターで1939年、アルゼンチンで制作された映画『黒い瞳の女』が修復されニュープリント版の完成披露が2日のみ…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 1 メキシコの女優エルピィデア・カリロのこと

メキシコの女優エルピィデア・カリロのこと 年の瀬、掃除も兼ねた不用品の処分をしていると、一群のVHSビデオに出会う。それは主にラテンアメリカを舞台にした米国映画で1980~90年代に制作されたものだ。すでに繰り返し観たので内容は十分、把握して…

映画の地球 これから公開  サム・ペキンパー監督『戦争のはらわた』

サム・ペキンパー監督『戦争のはらわた』 言わずと知れた戦争映画の傑作として名を遺す40年前のフィルム。ことし公開40周年を記念してデジタル・リマスター版で蘇り8月下旬に単館ロードショウが行なわれる。マスコミ試写が解禁、改めてペキンパーの妥協…

映画の地球 トランプ大統領へ 1  映画『ライブ・フロム・バグダッド』 ミック・ジャクソン監督

トランプ大統領が嫌うCNNについて 映画『ライブ・フロム・バグダッド』 ミック・ジャクソン監督日韓共催のFIFA・W杯で湧いた2002年に米国の有料TV局から全世界に配信された映画。サダム・フセイン独裁下のイランで活動したCNNバグダッド特…

映画の地球 私憤から公憤へ 1 映画『ラビング ~愛という名前のふたり』ジェフ・コリンズ監督

映画『ラビング ~愛という名前のふたり』ジェフ・コリンズ監督 愛はときとして人を強靭にする。愛の力によって市井の人が控えめに歴史の一ページを開いてしまうことすらある。それはおそらく宝くじに当たるより稀なことだろうが、大金を確かに手にする人が…

映画の地球 これから公開 『リベリアの白い血』 福永壮志監督

映画『リベリアの白い血』 福永壮志監督 血が噴き出している南北格差の問題を国境をまたぎ、真摯に人間のドラマとして撮った日本人の若い映画監督、福永壮志氏にまず敬意を表したい。 監督初の長編映画ということだが、小津流の省略の美学さえ感じられ風格す…

映画の地球 炭鉱を描く 2 旧作4作まとめて 『フラガール』『黒い土の少女』『家族』『ブラス!』

炭鉱と映画 日本の石炭需要は変わらず、しかし、炭鉱は閉山されて久しい 炭鉱をえがいた映画に傑作が多いのはなぜだろう。 福島いわきの常磐炭鉱の閉山にまつわるエピソードを良質な娯楽映画に仕立てた『フラガール』(李相日監督)がヒットし、国内の映画賞…

映画の地球 炭鉱を描く 1   トランプ大統領を支持するラストベルトが描かれる映画 『歌え! ロレッタ 愛のために』 

映画 『歌え! ロレッタ 愛のために』 マイケル・アフテッド監督 ~トランプ大統領を支持するラストベルトが描かれている 米国映画はジョン・フォード監督の『わが谷は緑なりき』(1941年)を劈頭に断続的に炭鉱を描いて秀作を遺している。本作もその系…