映画の地球 音楽の気流 そして書籍の宇宙

智慧の水球に揺蕩うように生きてきたわが半生。そろそろ御礼奉公の年齢となったようで・・・。玉石混淆、13年の日本不在のあいだに誉れ高きJAPONへの憧憬を募らせた精神生活の火照りあり。

映画の地球 公開中  映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 ジョン・リー・ハンコック監督

映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 ジョン・リー・ハンコック監督

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 タイトルはなんとなく、米国のグローバル企業を指弾しつづけるマイケル・ムーアの映画のようだが、本作はドラマである。
 マクドナルドを知らない日本人は絶対少数派だろうが、マックの存在しない国は意外と多い。あったとしても首都に一店舗か二店舗という国もまた多く。そういう国ではマックは高級ファーストフードとなる。基本的にマックのメニューは各国単位で違い、そしてそれぞれの国では共通メニューとなる。外に長く暮らして、その地のマックでいつも懐かしく思い出されたのがテキヤキ・バーガーだった。といって鮨のように食べたいわけではないのだが・・・。
 私が長く暮らしたメキシコ・マックのハンバーガーは日本でいえばビックマック並みで、米国ではメキシコより心持ち大きいと感じる。値段は当該国の物価に対して決められるから、それぞれ変わる。だから、海外にいってマックに入りメニューをみたり、味を確かめることは、その国を理解するひとつの方法だと思っている。
 最近の例ではハンガリーの首都ブタペストのマックに入った記憶が鮮明だ。まったく味付けの違うハンバーガーを食べた。値段は日本とさほど変わらなかったが、同市の観光ランドマークに近接した場にありながら客はハンガリー人だ けだったように思う。二階建ての店内はほぼ満席だったが、全然、おいしくなかった。コーヒーもまた日本にて味気ない。そんなふうに世界各地のマックについて書ける。もうひとつの例として書けば内戦中の中米エルサルバドルの首都サンサルバドル中心街のマックの思い出が鮮やかに思い出される。市街戦が起こる状況のなかで営業をつづけるその店は、対ゲリラ戦用にイスラエルが開発した銃身の短いウジー自動小銃の引き金に指をかけた完全武装の政府軍兵士が正面玄関の左右を守っていた。政府軍を武力援助しつづける米国の象徴的な企業としては警戒せざるえなかった。そんなふうに中米地峡諸国5ヵ国のマックを取り上げて面白い熱帯社会考現学でも書けそうな気がする。地峡諸国は7か国だが、私が滞在していた1990年代から2000年代初頭にはベリーゼ、ニカラ グアにマックは存在しなかった。断っておくが、私はファーストフードとしての 日本のマックの味は好きでないし、コーヒーもまずいと思っている。
 さて本作は、そのマックを世界企業に発展させた企業家レイ・クロック(マイケル・キートン)の実話をもとにしたドラマである。いかにして世界的企業に発展、飛躍したか、その経緯、経営努力とアイデアの妙を見せてくれるドキュメンタリーの要素もあっても面白い。
 1954年、シェイクミキサーのセールスマンのレイのもとに一社から8台もの注文が舞い込む。1台売るのに四苦八苦していたレイにとっては晴天の霹靂、僥倖ともいうべき事態だ。この注文がレイに舞い込んだことがマックの世界企業となるきっかけとなる。
 注文主はカリフォルニア州の小さな町でハンバーガ点を営むマックとディックのマクドナルド兄弟が経営する店だった。レイは商品を持参するついでに、なんで8台も必要なのかと好奇心を抱き店を訪問する。そこで目にしたのは合理的なサービスとスピーディさ、コスト削減、そのため調理場の配置設計はきっちり計算され余分な動きが徹底的に省かれているように思った。
 レイはこの店のコンセプトはどこでも受けれはずと商機を見つけ、「マクドナルド」のフランチャイズ化に乗り出し、見事に成功する。しかし、マクドナルド兄弟の経営理念は創業の地で求められるまま仕事ができればいいという姿勢。レイとの貪欲な利益追求とは相いれない。やがて、決裂、レイは兄弟から「マクドナルド」の社名、ロゴすべて買い取ってしまう。兄弟は自分のセカンド・ネームをつけた創業店から「マクドナルド」の看板を下ろすはめに。レイはうそぶく、「誰がレイ・クロックなんていう名に親しみがもてるか」と。レイは自分の名誉欲を自分の名に与えない。ひたすら企業家として実を獲ったのだ。
 企業の物語が映画として面白いのは創業者にまつわる話だけだ。それは小説や評伝物でも同じだろう。NHKの朝ドラをみればそれは納得できるだろう。「マクドナルド」の名を占有した後の話はむろん割愛される。
 マイケル・キートンが成り上がりの貪欲さと嫌味な冷徹さをみせながら演じて見事だ。
 
 余談だが、マックが並みの企業とはさすがに違うな、と思ったのは、本作をけっして広告塔としなかったことだ。マック・カラーには、マイケル・キートンバットマンは似合ってもケン・クロックの立身出世の物語など合わない。並みの企業であれば、ここぞと映画に相乗りするのだろう。