映画の地球 音楽の気流 そして書籍の宇宙

智慧の水球に揺蕩うように生きてきたわが半生。そろそろ御礼奉公の年齢となったようで・・・。玉石混淆、13年の日本不在のあいだに誉れ高きJAPONへの憧憬を募らせた精神生活の火照りあり。

映画の地球 トランプ大統領へ 1  映画『ライブ・フロム・バグダッド』 ミック・ジャクソン監督

トランプ大統領が嫌うCNNについて
 映画『ライブ・フロム・バグダッド』 ミック・ジャクソン監督
yjimage (1)日韓共催のFIFA・W杯で湧いた2002年に米国の有料TV局から全世界に配信された映画。サダム・フセイン独裁下のイランで活動したCNNバグダッド特派員チームを描いた作品。タイトルがそれを集約しているわけだが、その活動に相応しく最初からTV用映画として制作された。サブタイトルは「湾岸戦争最前線」。

 日本ではインターネット上でCNNのニュース記事は見、読めるが、TVでは日本語放送がないため一般的な認知度は低い。筆者がグァテマラ・メキシコに滞在していた当時、湾岸戦争における報道競争で一躍、勇名を馳せ、そ の後の飛躍を促し今日の地位を築いたわけだが、そのエポックメーキングな事件を扱っている映画だ。
 CNNは英語とスペイン語局の二局で24時間ニュースを放送しつづけている。その影響力というのは凄い。極端な例でいうのではなく今日的な常識的な光景として書くのだが、CNNスペイン語放送によって、たとえばグァテマラの山奥のマヤ系先住民の家庭が、東京のウォータフロントの高級マンションに住む日本人家庭より世界情勢をより適確に把握している、ということが現実に起きている。日本語という"特殊言語”の壁は大きいわけで、その壁を破る力があるのは、日本ではNHKしかない。リアリズムでいうのだが、これから時代を考えれば娯楽番組は民放に任せて、CNN級の報道機関になれといいたい。ドバイ(カタール)に本局のあるアルジャジーラの予算規模はNHKの何百分の1、それ以下だろう。しかし、その世界的な影響力は世界大でNHKなど足もとに及ばない。そういうことを虚心に考える時代に入っていると思う。
 
 1990年8 月、サダム・フセインイラク軍がクェート併呑を武力で敢行しようとして開始された湾岸戦争だが、米国主導で結成された有志連合軍によるイラク攻撃で節目が変わる。この一連の報道で世界の主要メディアは凌ぎを削りあう。すでに活字メディアの退潮は著しく、報道のあり方の潮目が替わったのが1989年、冷戦の終結を象徴する「ベルリンの壁崩壊」であったとすれば、それを決定づけたのは湾岸戦争の報道だった。そして、ここで主役を演じたのが新興勢力CNNであった。

 1991年1月17日、CNNバクダッド特派員チームは当夜、予告なく始まった有志連合によるバクダッド空爆を市内のホテルから生中継し、爆風で室内が破壊されるなかで、それこそ身を挺して翌朝まで ライブ中継をつづけた。その映像は既存のTV局もCNNからの配信を受ける形で、(つまり全面的にCNNの軍門に下って)放送をつづけた。本作は、1月17日夜の空爆ライブをクライマックスとして、同特派員チームのリーダーであったロバート・ウィーナーの視点から描かれる。

 いま、何故、こんな旧作を取り上げるかといえば、トランプ時期大統領の“金言”が冒頭部で印象深く語られていたからだ。ウィーナーは志願してバクダッドにCNNの拠点を作るために入国、バグダッド空港に降り立った冒頭部の一シーンでそれは登場する。しかも、イラク政府の職員の口から語られる。それは1987年に刊行され、ミリオンセラーになった『トランプ自伝』にあるもので、曰く「金は王である」。当時、サダム・フセイン独裁下のイ ラクでも『自伝』の読者が相当数いたということになるが、その自伝は昨年6月、トランプが次期大統領候補として共和党から立つための準備を開始した頃、ひとりのジャーナリストが「あの『自伝』はわたしがゴーストライターとして書き下ろしたものだ」と告白した。その人の名をトニー・シュウォルツという。
 映画はウィーナーの原作を彼自身がシナリオ化したものだが、そのウィーナー役をヒット・シリーズ『バッドマン』を演じたマイケル・キートンが演じている。 (2016・12・26記)