映画の地球 音楽の気流 そして書籍の宇宙

智慧の水球に揺蕩うように生きてきたわが半生。そろそろ御礼奉公の年齢となったようで・・・。玉石混淆、13年の日本不在のあいだに誉れ高きJAPONへの憧憬を募らせた精神生活の火照りあり。

映画の地球 これから公開 『リベリアの白い血』 福永壮志監督

映画『リベリアの白い血』 福永壮志監督

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 血が噴き出している南北格差の問題を国境をまたぎ、真摯に人間のドラマとして撮った日本人の若い映画監督、福永壮志氏にまず敬意を表したい。
 監督初の長編映画ということだが、小津流の省略の美学さえ感じられ風格すら覚える。なりより選んだ主題が真率である。
 筆者が住む埼玉県蕨市には市役所に滞在届が提出されているだけで32ヵ国籍の外国人が住んでいる。日本でいちばん小さな面積しかもたないわが町で飛び交う言語は多様だ。筆者はこの町で4度の国勢調査員としてはからずも市民の定点観測する役割を与えられ、最近は自治省から優秀調査員としての感謝状が送られてきた。今年は自治会の班長も務めているが 、まことに外国人の増加をひしひしと感じる。
 長女の小学生時代はもう10年ほど前になるが同級生に4か国籍と日本籍の計5カ国の子どもが机を並べていた。32ヵ国人もいれば、当然、アフリカ諸国からやってきた住人も多い。アフロ系の子どもたちも公立小中学校に通学している。アフロ系とはわかるが、それがケニア南アフリカか、それともリベリア……といちいち考えてもみない。国名を聴いても、さてアフリカ大陸の奈辺に位置するものかどうか、と判然としないこともあるだろう。
 本作『リベリアの白い血』の試写状を戴いてから、〈確かリベリアは米国の南北戦争後、解放奴隷たちがアフリカに戻り米国の支援を受けて建国した国であったはずだが、さて、その位置は、確か西ア フリカの小さな沿岸国であったはずで、すこし前まで深刻な内戦下にあったと思うが・・・〉とまことに曖昧模糊とした知識しかなかった。ああわてて地図を広げて確認し、ネットであらためて現況を知った。
 おそらく蕨市にもリベリアからやってきた人がいるだろう。けど、町ですれ違っても、アフリカ諸国から来た人なのか、それとも米国や英国、はたまたフランス在住のアフロ系市民なのかはまったくわからない。映画の後半は、主人公がタクシー運転手として暮らすニューヨークが描かるが、同市に住むアフロ系住民すらリベリア人として認識できるのは、リベリア訛りの言葉に反応できるリベリア系市民だけとなる。考えてみれば当たり前のことだが、そんなこともあらためて確認させる新鮮さがある。
 
 舞台はリベリアの寒村のゴム農園。そこで働くゴム液採集農夫シスコ(ビショップ・ブレイ)は低賃金で苛酷な労働を強いられている。その改善に仲間とハンストに入るも、生活難を強いられた仲間はたちまち脱落してしまう。このままで子ども将来も絶望的な状況と思ったシスコは米国NYのリベリア人コミュニティーを頼って渡米する。
 運転手の仕事を得たシスコであったが、ある日、祖国に見切り付けた内戦当時、一緒に戦った旧友とあってしまう。そこで明かされるシスコの前歴。内戦時代、非情な兵士としてそうとう残酷な人権侵害を繰り返していたことが語られる。そんな過去を消したいシスコは、その旧友から遠ざかりたいが、せっかく掴んだ仕事を手放すことはできない。母国では、シスコの稼ぎをあてにして貧窮に耐えているからだ。
 いまは麻薬密売にも手を出しているらしい旧友はシスコに、「お前がどう奴だから俺は良く知っている。俺たちの仕事に加わったほうが自然だ」と仲間に引きづり込もうとする。・・・その続きは書かない。
 リベリアでも映画が制作されていて、シスコを演じた男優も出演しているようだが、彼自身、リベリア内戦から逃れ隣国ガーナの難民キャンプでの生活を強いられた体験を持つとのことだ。そして、その難民キャンプのボランティア活動の一環としてはじめた俳優、演技体験がプロの道へ進ませたようだ。悔恨に満ちた痛切な過去を胸底に沈めたまま耐えるように生活する男の哀歓を背で演じることのできる俳優だと思った。本作への主演後、NYで俳優として立つことを目指して現在は活動中とのことだ。
 ▽8月上旬、渋谷アップリンクで上映。