映画の地球 音楽の気流 そして書籍の宇宙

智慧の水球に揺蕩うように生きてきたわが半生。そろそろ御礼奉公の年齢となったようで・・・。玉石混淆、13年の日本不在のあいだに誉れ高きJAPONへの憧憬を募らせた精神生活の火照りあり。

映画の地球 これから公開 『永遠のジャンゴ』 エチェンヌ・コマール監督

映画『永遠のジャンゴ』 エチエンヌ・コマール監督 ジャンゴ・ラインハルト、ヒターノ(ジプシー)出身の不世出のギターリスト。筆者には親しい名だが、ほとんどの読者にはなじみがないだろう。日本で流通しているCDも極端に少ないし、筆者が所蔵しているアル…

映画の地球 ドキュメント映画『ニュルンベルク裁判 人民の裁き』 ロマン・カルメン監督

ドキュメント映画『ニュルンベルク裁判 人民の裁き』 ロマン・カルメン監督 今年、まだ寒い時期だったがNHKで数回に分けたドラマ「東京裁判」(表題失念)があった。裁判に関わった各国の検事たちの人間ドラマで、興味深く視聴した。検事たちが当時、宿泊、…

映画の地球 バレエと映画 7 これから公開 『ポリーナ、私を踊る』

映画『ポリーナ、私を踊る』 ヴァレリー・ミュラー&アンジュラン・プジョカージュ監督 業界内発言になるような気がするが、あえて本作がバレエ映画として大変良くできている作品だし、多くの人に観てもらいたいので少々、苦言を頭にふっておく。通勤・通学…

映画の地球 バレエと映画 6 映画「ホライズン」  アイリーン・ホーファー監督

映画「ホライズン」 アイリーン・ホーファー監督 生きて伝説となる、という賛辞があるが、それに価するほどの超人的な「人間」はめったにいやしない。 テレビや映画、スポーツ界での抜きん出た才能というのはあるけれど、安易にレジェンド=伝説と冠されると…

映画の地球 バレエと映画 5 『マイコ ふたたびの白鳥』 『ロパートキナ 孤高の白鳥』

二つの注目すべきバレエ映画 来春、相次いで公開 『ロパートキナ 孤高の白鳥』『マイコ ふたたびの白鳥』 2作とも「白鳥」がサブタイトルに飛翔している。しかし、ロパートキナはサン=サーンスの「瀕死の白鳥」、マイコはチャイコフスキー=マリウス・プテ…

映画の地球 バレエと映画 4 『バレエボーイズ』『ボリショイ・バビロン』

映画の地球 バレエと映画 4 『バレエボーイズ』『ボリショイ・バビロン』 華やかに気品をそなえ、激しい跳梁と美しい静止の連鎖に満ちたバレエを映像があますことなく追い表現できる技術が完成して以降、多くの映画が生まれた。そして、この分野の映画はま…

映画の地球 バレエと映画 3 映画『pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』ヴィム・ヴェンダース監督

映画『pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』ヴィム・ヴェンダース監督 ヴェンダース監督は同時代のすぐれた創造者に対する畏敬の念が強い。 監督自身も映像を手がかりに20世紀後期から現在進行形で「現在」を鋭敏に批評してきた時代の一大個性である。…

映画の地球 バレエと映画 2 バリシニコフ主演のバレエ映画『ホワイトナイツ』

バリシニコフ主演のバレエ映画の秀作『ホワイトナイツ』そして、ヴィソツキーの歌 舞踊を主題にした映画を観る批評の視点はひとつしかない。クラシックであろうがモダンであろうが、フラメンコでも日本舞踊も同じ、インド舞踊もしかり……。描かれる舞踊が借り…

映画の地球 バレエと映画 1  ナタリー・ポートマン主演映画『ブラック・スワン』と歴代のバレエ映画

バレエ映画は大きなスクリーンで観たいものだが、仕事だから仕方がない、マスコミ用の試写室で観ることになる。気になれば公開されてから映画館で観ることになるけど、意外とそうまでして再見したいと思うバレエ映画は少ない。結論からいえば、本作『ブラッ…

映画の地球 プーチン大統領下のロシア映画 6 『デイ・ウォッチ』(2006・ティムール・ハベンスキー監督)

プーチン大統領下のロシア映画 6 『デイ・ウォッチ』(2006・ティムール・ハベンスキー監督) 監督は、その名から知れるように中央アジア、現在は域内大国として経済発展しつづけるカザフスタン出身のフィルムワーカー。ティムールとはウズベキスタンの民…

これから公開 映画『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』 パブロ・ラライン監督 かつて、イタリアで亡命の日々を送っていた詩人パブロ・ネルーダと郵便配達青年のささやかな友情を描いた『イル・ポスティーノ』(1994)という佳作があった。それは素直にネルーダへ…

映画の地球 朝鮮戦争を描く 1 イ・ジェハン監督『戦火の中へ』学徒兵たちの身を張った籠城戦

朝鮮戦争を描く 1 イ・ジェハン監督『戦火の中へ』 学徒兵たちの身を張った籠城戦 朝鮮半島の全域がほぼ戦場となった朝鮮戦争を描いた映画は、国連軍の中核であった米国軍兵士の視点から撮られたハリウッド作品からはじまり、やがて韓国、北朝鮮で制作され…

映画の地球 非愛国的な米国映画『バトル・オブ・ノルマンディー』 ティノ・ストラックマン監督

映画の地球 非愛国的な米国映画『バトル・オブ・ノルマンディー』 ティノ・ストラックマン監督 表題のごとく米国を主力とする連合軍が敵前上陸を慣行したノルマンディ上陸作戦を主題とした映画。が、上陸に応戦するドイツ軍一大尉の視線から撮られたものだ。…

映画の地球  Antifaとウェーザマン、米国の混迷のなかで 映画『ランナウェイ』 ロバート・レッドフォード監督

映画『ランナウェイ』ロバート・レッドフォード監督・主演・製作 トランプ米大統領が有力候補として共和党の予備選を勝ち抜いていた時期かた極右派のあらたな台頭があった。それは旧来の白人至上主義を標ぼうする勢力を表舞台に引き出すかたちで急速に勢力を…

映画の地球 スポーツと映画 1 カーリング主題 『シムソンズ』、『素敵な夜、ボクにください』

スポーツと映画 カーリング主題 『シムソンズ』(2006年)、『素敵な夜、ボクにください』(2007年) 映画の効用の一要素に楽しく、興味津々、観客を飽きさせず、まだ広く認知されていたないスポーツ競技のルールや、当該競技に掛ける選手たちの思い、発情、苦労…

これから公開  映画の地球 『ル・コルビュジェとアイリーン ~追憶のヴィラ』メアリー・マクガキアン監督

『ル・コルビュジェとアイリーン ~追憶のヴィラ』メアリー・マクガキアン監督 ル・コルビュジェにしてもアイリーンしても劇映画のなかで描かれるのをみるのはじめてだ。その意味では映像化を試みたスタッフ、キャッストに敬意を表したいし、20世紀を代表…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 10 プエルトリコの独立問題を扱った映画『テロリストを撃て!』

プエルトリコの独立問題を扱った映画『テロリストを撃て!』 プエルトリコの“良心の囚人”オスカル・ロペスのことを先日、書いた。大半の読者がロペスの存在を知らなかった。 ラテン音楽ファンには、リッキー・マルティンを筆頭にたちまち両手の指がおれるほ…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 9 薄汚れたグリンゴを演じたジョニー・デップ 米国自治領プエルトリコへの問い 映画『ラム・ダイアリー』 ブルース・ロビンソン監督

映画『ラム・ダイアリー』 ブルース・ロビンソン監督 プエルトリコでラム酒に浸りきった日々を過ごす情けなくも薄汚れたジャーナリストの端くれ男ポール・ケンプ(ジョニー・デップ)の蘇生物語。 今日のプエルトリコ自治政府は破産政府である。ワシントン政府…

映画の地球 プーチン独裁したのロシア映画 5 t.A.T.uのポップスをBGMにしたチェチェン紛争映画『厳戒武装指令

t.A.T.uのポップスをBGMにしたチェチェン紛争映画『厳戒武装指令』ニコライ・スタンブラ監督 冷戦末期、ソ連はアフガニスタンに介入して混迷し、共産党独裁の崩壊に繋がった。 アフガニスタンの親ソ派政権を維持するための武力介入は、ソ連を疲弊させた。 タ…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 8 映画『ボーダータウン ~報道されない殺人者』グレゴリー・ナバ監督

映画『ボーダータウン ~報道されない殺人者』グレゴリー・ナバ監督 米国の最南端、メキシコ最北端がせめぎ合うところ、そこはボーダー、国境だ。3141キロにおよぶ長大な距離だ。 ちょっと想像できない距離だと思うが、日本列島をまず思い浮かべていただ…

映画の地球 アフリカを描く 4  セネガル*映画『サンバ』エリック・トレダノ監督 移民問題は先進国の映画に潤沢な滋養を与えている

移民問題は先進国の映画に潤沢な滋養を与えている 映画『サンバ』エリック・トレダノ監督 ルーブル美術館やエッフェル塔周辺……外国人観光客が行き交うパリ界隈、ひとめでアフリカ系と判る男たちが、見栄えもせず造作もぞんざいな真鍮製のエッフェル塔のミニ…

映画の地球 これから公開 自ら解毒する性根のない作品 アルゼンチン映画『笑う故郷』 ガストン・ドゥブラット監督

自ら解毒する性根のない作品 アルゼンチン映画『笑う故郷』 ガストン・ドゥブラット監督 原題はスペイン語で「名誉市民」だが、邦題は何故か意味不明の「笑う故郷」に。本作は「名誉市民」の方が象徴的にふさわしいし、反証的なアイロニーを形成すると思う。…

映画の地球 核戦争と映画 3 映画「トランボ」 ジェイ・ローチ監督

映画「トランボ」 ジェイ・ローチ監督 *「核戦争と映画」のカテゴリーに入れるのは少々、無理があるが、冷戦初期の゛熱戦”下における「赤狩り」時代を描いた象徴的なポリテック主題映画として、ここで語っておきたい。 * * * 筆者にとってトランボことダ…

映画の地球 核戦争と映画 2 映画『グッドナイト&グッドラック』ジョージ・クルーニー出演・脚本・監督 

米国、“赤狩り”時代に報道の自由を守り抜いた男を描く映画『グッドナイト&グッドラック』 ~ジョージ・クルーニー出演・脚本・監督 2005*「核戦争と映画」のカテゴリーに入れるのは少々、無理があるが、冷戦初期の゛熱戦”下における「赤狩り」時代を描いた…

映画の地球 アフリカを描く 3 *シエラレオネ『ブラッド・ダイヤモンド』エドワード・ズウィック監督

2006年、レオナルド・ディカプリオは、本作でアフリカの貧しい白人入植農民の息子、長じて傭兵崩れのダイヤモンド密売人となったアーチャーを演じてオスカーの主演男優賞の候補になっている。 主題は、先進国の宝飾メーカーがアフリカの小国の紛争を利用…

Ω 映画の地球  核戦争と映画 1 『原爆下のアメリカ』アルフレッド・E・グリーン監督

『原爆下のアメリカ』 (原題Invasion,U.S.A) アルフレッド・E・グリーン監督 レンタルビデオ屋さん供給用にと、倉庫払底作業のなかから発掘されたようなB級SF映画。邦題、原題(侵略,U.S.A)もまた、なんとも工夫のない直裁なものだが、そこに冷戦時代…

映画の地球 布教と映画*マーティン・スコセッシ監督『沈黙』~カトリック諸国での反応

映画の地球 布教と映画*マーティン・スコセッシ監督『沈黙』~カトリック諸国での反応 遠藤周作の代表作『沈黙』は、江戸初期、長崎・島原地方、隠れキリシタンの住む寒村を舞台に、信仰と棄教という二元論を真正面から描いた日本文学のなかでは特異な位置…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 7   米墨国境地帯は映画の宝庫 『ノー・エスケープ ~自由への国境』 ホナス・キュアロン監督

映画『ノー・エスケープ ~自由への国境』 ホナス・キュアロン監督 2015年の制作だから、まだトランプ大統領が共和党の正式候補にもなっていない時期の映画だ。しかし、米墨国境地帯をめぐる状況が大きく変化することを予見したような映画が撮られたとい…

映画の地球 ラテンアメリカの映画 6  モノクロームの美しいコロンビア映画『彷徨える河』 シーロ・ゲーロ監督

コロンビア映画『彷徨える河』 シーロ・ゲーロ監督 墨に五彩在り、という。東洋の審美眼を象徴的に要約したものだ。水墨によって森羅万象を描こうとの野心をもった東洋の画工たちは、墨で山なす緑を描き、新緑、盛夏の緑、湿潤な緑とさまざまな抒情を表出し…

映画の地球 プーチン独裁下のロシア映画 4  映画「大統領のカウントダウン」  エヴァゲニー・ラヴレンティエフ監督

映画「大統領のカウントダウン」 エヴァゲニー・ラヴレンティエフ監督(2004・ロシア映画) ソ連時代であったならば絶対に映画化されないポリテカル・アクション。共産党独裁のクレムリン首脳部は、首都モスクワで起きた反政府テロを大いなる恥辱として…